輪るピングドラム第19駅「私の運命の人」感想

いよいよ物語が核心に近づいている感じがするよね、このあたりから。

(実際のところ核心は第1駅の時点で既に示されているのだけど)

 

冒頭先ず破局した田蕗夫妻と、温かな雰囲気の高倉兄妹+苹果の対比。田蕗とゆりは自分たちの欠損を埋めようと家族の形を作っていたが、やっぱりダメでした、という話でした。うーん。両者とも不誠実な動機で家族になっていたんではなかったというところがまたしんどいね。

高倉家はたぶんこれが最後の団欒シーン。晶苹(というか苹→晶)もしれっと挿し込まれていい雰囲気ですね。しかし陽毬は晶馬の隣の自分の居場所が苹果にとって代わられつつあることに寂しさを感じてしまうのです。

 

次が陽毬と眞悧先生の診察室の場面。ここね、かなり好き。

「私は死ぬのね」

「死なないよ」

「嘘」

「どんな言葉を言って欲しいのかな」

はっとする陽毬。わかる。わかるなあ。。自分もこういうコミュニケーションをしてしまうことがある(陽毬側も眞悧側も)。甘えているというか、自分でも何と言ってほしいのかわかっているような分かっていないような、でも自分では処理しきれなくてやんわりと他人に汲み取ってもらいたいようなずるい気持ち。

「君は自分をどうしたいの?」

「私は、このままでいたいの。冠ちゃんと、晶ちゃんと、私で。ずっとこのまま」

「それで良いの?自分の本当の気持ちに気がつくと、大切なものが壊れてしまう。君はそう思っている」

陽毬自身この時点でうまく言語化できていない(していない)が、陽毬は高倉3兄妹というユニットで冠葉の愛を受け、初恋の相手である晶馬への思いをずっと胸に秘めながら家族として傍で過ごす状態が居心地よかったのだよね。それが苹果という外部からの侵入者によってバランスが崩れてしまったのが怖いのだよね。わかるなあ。

 

「嘘で固めたものに、真実なんて生まれやしない!」

「目を背けてはダメ。あなたは誰。なぜここにいるの。何をしたいの」

真砂子先生の名言シリーズ。二言目は陽毬に、おまえが大事に抱えているものは家族愛なんかじゃないんだぞと突き付ける目的で発せられた言葉ですが、なんか会社の1on1で出てきそうですね。

思い出し球を構えて更に陽毬を追い詰める真砂子。陽毬が行き止まりの壁に当たって振り返り真砂子を見るカットに注目してほしい。これは(すぐ後のシーンでも説明されるけど)子どもブロイラーを明らかに示唆しているのだよね。陽毬の過去であり核であり陽毬の至った場所である子どもブロイラーの、あの巨大なプロペラと、抵抗する力もなく砕かれようとする無力で小さな女の子の姿。

子どもブロイラーってちょっと怖いけど、あそこに来てしまった子どもたちにとって、透明になることって多分もはや怖くはないんだよね。子どもブロイラーにいる時点でもう救いはないというか、彼ら主観で生きている意味やモチベーションってもう失っていると思うのだよね。もう自分の居場所が愛の世界にはないのだから。田蕗も陽毬もいよいよ自分が透明にされんとしている時はむしろ透明になる側に倒れていて「いや、どうせ自分にはもう価値も居場所もないのだから、透明になるしかないよ」みたいな態度になっている。。これは何となくすごくわかる。

透明になってしまおうとするとき、「行かないで、行っちゃダメだ」と手を引いてくれる人がいたから、田蕗も陽毬も生の世界に踏みとどまることができたんだろうなあと、強くそう思う。

Ep.24の「だからたった一度でもいい、誰かの愛してるって言葉が必要だったんだ」「たとえ運命がすべてを奪ったとしても、愛された子どもはきっと幸せを見つけられる。私たちはそれを知るために、世界に残されたのね」も同じことをメッセージングしているね。

「うちに帰るんだよ、僕と一緒に。そう、僕たちは家族になるんだ」

「どうやって?私はあなたの家族じゃないよ」

「平気さ。僕らには魔法がある。運命の果実を、一緒に食べよう」

「選んでくれてありがとう」

ここ最後に子どもの声に晶馬の声が被っていく演出が(ベタだけど)鳥肌立つ。これなのよ。陽毬思いだしちゃった編。陽毬が運命の果実を分け合った相手は晶馬だったのでした。。

これ初めて見た時どんな気持ちになったのかもう忘れちゃったけど(大変惜しい)、多分同じ人間だから今の私と同じようにものすごく鳥肌立っていたんだろうなあと思う。

このガラスの降り注ぐ画面、Ep.24のBパートを彷彿とさせるよね(勿論順序的にはこちらが先になるけど)。あの場所で陽毬はやりとりした果実のリセットをしていたので、自分が果実を受け取った時のやり直しをしていたということになるのかな。

陽毬は晶馬と果実を分け合うことで高倉家の人間になり、なので陽毬の運命の人は晶馬で、冠葉ではなくて、でも冠葉の愛を家族の当たり前のものとして受けていて高倉家の人間として生きていたのです、という衝撃の真実が曝されてしまったのでした。

 

「ずっと一人だと思っていた。あの日、あの氷の世界で、私は運命と出会ったのだ」

エンドカードと台詞まで良い。これ一言一句漏らさず全部、好き。私は運命と出会ったのだ。ってね。

 

Ep.24、20、9の順で好きだ、とよく言っていたが、この回も良いよなあ。夏芽HDのギャグ回終わってからEp.18、19、20…と一気に鬱展開になっていくこの流れがもう、凄いとしか言えない。。

 

次回は第20駅。