輪るピングドラム第18駅「だから私のためにいてほしい」感想

知られざる田蕗先生の過去。

 

歌手である田蕗の母親は音楽の才能に価値を認めており(これを愛とは書きたくない)、著名な作曲家の田蕗父と結婚し、田蕗を生んだ。田蕗はピアノの才能によって母親の愛を受けていた。

しかし、田蕗父の才能が何らかの形で霞んだため別れ(ゆりの両親の男女逆バージョンですね)、別の作曲家と再婚し田蕗弟が生まれた。生まれた田蕗弟は(まだ田蕗以外の誰も気づいていなかったが)天才だった。弟が成長し自分を凌駕する才能を発揮した時に母親が自分から興味を失うことを恐れた田蕗は自ら指を損傷し、ピアノ人生を絶った。発展途上のまま負けないまま終わることで母の愛を失わないことを願って。

その日、鳥籠が錆びた。だから、鳥は外へ出られなくなったんだ。

しかし、母親はもはや音楽的才能を発揮する事がなくなった田蕗への興味を失い、田蕗は母からの愛(愛か?)を永遠に失い、いらない子どもになった。

 

前半戦超ざっくりまとめるとこんな感じですかね。

 

輪るピングドラムで好きな話を挙げてと言われたら、Ep.9(陽毬過去編、空の孔分室の回)、Ep.13(最後の「私は運命って言葉が好き」のシーンが好き)、Ep.20(陽毬過去編、子どもブロイラーの回)、Ep.24、あたりをぱっと出すのですが、しんどい回を挙げてと言われたらEp.18が入るのかもしれない。

何がどうしんどい、とか、書くのもまた瘡蓋を剥がすような心持ちになるのだけど。私はたぶん、母親にだいぶ愛されていると思うんだが、ある面で田蕗母と私の母の振る舞いは(強さの違いは勿論あれど)似た所があって、私はそれがなんというか苦しかった(現在完了進行形)。10年前にはあまり田蕗とゆりに注目していなかったのだけど(上記のつらみをあまり自覚しておらず、あとはひたすら高倉兄妹のリンゴのやり取りに興味があった)、そういうわけで自分に一番近いのは田蕗かもしれない。次点ゆり。

だから、最近最終回を改めて見た時に、田蕗とゆりが見つけた答えが、すなわち私の目指すものだ、と思ったのだよね。

 

母親からの関心を失った田蕗は子どもブロイラーで透明な子どもにされかかってしまう。と、そこに桃果が現れる。

「あなたを必要としている人のもとへ、帰るの」

(中略)

「良いんだ、これで僕は自由になれる。ピアノからも、お母さんからも」

「だったら、私のために生きて。(中略)さあ、一緒に帰ろう」

自分はもうピアノが弾ける子どもという要素を失ったから価値がないのである、と拒否する田蕗に桃果は「そんなの関係ない。わたしが聴いたのは、あなたの心だもの」と食い下がる。やや脈絡ない気がするが、これ愛の必要条件ですよね。

最終的には、田蕗は桃果と共に子どもブロイラーを出ます。桃果に選ばれ、望まれ、生の世界に帰ったのですね。

わかるなあ。

 

田蕗にとって桃果はこのような背景を持った人で、彼女が彼の生きる意味だったというのは本当にそうだと思うのです。生きる意味を他人に委ねるって自分にも相手にもあまり良くないのでは、と思うけど、"私にとっては"やはり、最終的に自分を生の世界に繋ぎとめるのは自分にとって大切な他者なのだよな。そうなると、桃果を奪った高倉両親、の子どもたちに恨みを向けてしまう気持ちは理解できないでもない。

「嫌だ、絶対離さない」「俺は、お前のために生きたいんだ」

が、しかし、身を賭して陽毬を救おうとする冠葉を見て、それがかつての桃果と自分の姿であったことに気付くんですよね。ここの田蕗の表情の変化が良い。

 

「私は違うよ。私は晶馬くんたちのこと、嫌いになったりしない。悲しいことも、辛いことも、無駄だなんて思わない。それが運命なら、きっと意味がある。私は受け入れて強くなるよ。だから、」

最後のこれ、「だから、」の後すぐにサブタイトルが表示されて繋がるのが良い。この「だから私のためにいてほしい」という言葉は、かつて桃果から田蕗に向けられた言葉で、そして今苹果から高倉兄妹に向けられた言葉でもあるのです。(あとは冠葉→陽毬も勿論そうだよね。)この繋がりの見せ方というか演出がもう、鳥肌立つ。

「だから私のためにいてほしい」ってさ、これは愛だよね。常々思うのだけど死ぬのって本人的にはソリューションとして機能するので、私は人が死にたいと言っていたら、「なるほどね」と思ってしまうのだけど、その人の生のつらみを承知した上でそれでもその人に生きていてくれることを望むとしたら、そこに在るのは愛だよね。だから愛って送り手のエゴなんだよね。

エゴなんだけど、それは分かっているんだけど、それでもあなたにいてほしい、罰を抱えているのであれば分けてほしい、みたいな。この自分の中で何よりも強い気持ちが愛なんだよね。

 

まだEp.18なのに最終回みたいな感想を書いてしまった。

 

次回は第19駅。