輪るピングドラム第22駅「美しい棺」感想

今、まさに会いに行きます。の話。(電車の吊り広告のやつ)

 

これね、市川拓司さんの『いま、会いにゆきます』を思い出してしまうよね。(というかそれを擦ってるよね?)

あれは私がかなり好きな作品の一つで、しっとりと音もなく降るような雨の中で二人の人間が惹かれ合って愛し合っていく、お互いを選びあっていくさまがとても美しいと思うのだよね。

 

ピングドラムに話を戻すと、ダブルHのふたりが陽毬に会いに来ます。マフラーのお礼だ、と新曲のアルバムを携えて。

この場面が最後に伏線として繋がってくるんですよね。誰がこれを予想できたでしょう。。まあ「陽毬ちゃんが一番大切にしていた言葉をタイトルにしたんです」は最終話で初めて出るから、予想できるものではないけど。

これよく見るとちゃんと「運命の果実を」という言葉が見えるのよ。だからピングドラムって1周目が0周目なんだと思う。Javaの配列みたい(Java知らんけど)。

 

で、その陽毬は何をしているかというと、組織のアジトに籠った冠葉の所にいて、もう私のために頑張らなくていいから危ないことはやめてほしい、と語りかけているがまったく冠葉は聞く耳を持たないのですね。冠葉は池袋駅近くの隠し部屋に出かけてしまい、それを追った陽毬はなぜかサンシャイン水族館に迷い込んでしまいます。

神様、お願いです。私が見て見ぬふりをして冠ちゃんから奪ったものを、冠ちゃんに返してあげてください。どうか、冠ちゃんを助けてあげて。私が冠ちゃんからもらった全てを、命を、返しますから。

陽毬は冠葉から貰った命で生を繋いでいましたが、冠葉に返したいと願うことでそれを手放し、ここで倒れます。こういう感じでリンゴがどのタイミングでどう動いているのか図解すると面白いというか、分かりが良くなるんだよね。多分。

この流れって陽毬の側から見ると勿論しんどいんだけど、冠葉の側から見るとどうだろう、と考えると、こちら側もまたしんどいだろうなあ。と思う。冠葉としては自分の愛する女性である陽毬が笑って生きていることが自分の人生における最優先事項で、それの実現のためなら何を投げ出しても構わないし、逆にそれが担保されない世界は耐えられないのだよね。だから自分の命を半分与えているし、文字通り血を流しているわけよ。だから、陽毬にリンゴを返却されるのは、冠葉にとってはとてもつらいことだよね。。いや、自分の命なんていらないっつってんじゃん(泣)みたいな。

勿論冠葉に命を削られて守られるのは陽毬の本意ではないから、愛っていうのはなんというか、時に押しつけがましく暴力的なものになり得るのかもしれない。(それは分かってるけど愛したいのです、というわがまま感もまた愛の構成要素だと私は思っている)

 

そして場面変わって、ゆりが苹果を呼び出して日記の片割れを返しています。もう自分達には必要がない、あなたの方が活用できるもので本来あなたのものだから、みたいなことを言っていた(と小説版に書いてあった)記憶がある。

ここの回想で出る会話が、輪るピングドラムという作品の全話を通して一番好きです。

「ゆり、やっと分かったよ」

「何が?」

「どうして僕たちだけがこの世界に残されたか、が」

「教えて」

「君と僕は、予め失われた子どもだった。でも、世界中のほとんどの子どもたちは僕たちと同じだよ。だから、たった一度でもよかった。誰かの愛しているっていう言葉が、僕たちには必要だったんだ」

これね、14歳ではじめて輪るピングドラムという作品に出合った時はまったく感情の網にかからず抜けていった言葉なのですが、10年越しで見るとこれこそが輪るピングドラムという作品の核だと思うし、私がこの作品に心を寄せる理由なのだと思う。

陽毬や冠葉にも通じる話だけど、彼らは実両親との関係に恵まれていなくて、だけど誰かに愛されて心から必要とされ、その誰かを自分も愛し、家族になることで、生きていられたわけじゃん。それって大なり小なり皆ある話だと思うんだよね。

誰しもあらかじめ何かを失っていて、その欠落すなわち罰を抱えて生きていくために、それを分け合ってくれる誰かが必要だと思う。その誰かがいることが、本人にとって生きる理由になる。だから、「僕の愛も、君の罰も、みんな分け合うんだ」という言葉がキーメッセージとして一つあるのだね。

輪るピングドラムという作品の全体を見ると、ざっくり上記のようなことをこの会話は言っていると私は解釈しているし、私はこの数か月間、これを折に触れて思い出していたな。

 

最後に、冠葉と真砂子の場面。(この回ってなんていうか、殊更に濃いなぁと思うのは私だけ?)

この台詞が好きです。

「お願い、言って。わたくしはあなたの大切な妹だと、一度だけ昔みたいに言って。そうしたらわたくし、あなたと一緒に未来永劫呪われてもいいから」

この「あなたと一緒に未来永劫呪われてもいいから」っていう言葉、良いよね。僕の愛も君の罰も…に少し通じるものがある。気がする。

 

次回は第23話。いよいよ最終回秒読み。。